飯守泰次郎&仙台フィルの「ザ・グレート」ほか

今回の定演もプログラムが発表になったときからずっと楽しみにしていたもの。飯守マエストロの芸風からいって、グレートも最高の聴きものになるだろうと思っていた。

週末の天気は観測史上最強の寒波襲来という予報だったので、果たして会場にたどり着けるだろうかと気が気でなかったが、盛岡 → 仙台はそれほどでもなく、いつものように順調に東北自動車道を飛ばした。

コンサート前半は堤剛氏を迎えてのショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。開演前のロビーで、「ショスタコーヴィチは予習して来ましたよ」と話している男性がおられたが、私も同じで、このコンサートを機に、馴染みの薄かったこの曲をエアチェックコレクションから引っ張り出してにわか勉強した。

演奏が始まってすぐ感じたことは「おおらか」ということ。この協奏曲にあまりふさわしくない表現と思うが、予習に聴いていた演奏がゴーティエ・カプソン(ゲルギエフ&マリンスキー)とシェク・カネー=メイソン(グラジニーテ=ティーラ&バーミンガム市響)という若手ふたりのゴムのようにはじける演奏だったので、それとの対比から巨匠の演奏を「おおらか」と感じた次第。

この曲については自分の聴き込みが足りないのであまり語れないが、とても魅力的な曲と思う。第1楽章(急)→第2楽章(緩)→第3楽章(チェロ独白)→第4楽章(主題が再現され大団円)と構成としては分かりやすく、ショスタコーヴィチならではの諧謔とか悲哀とか孤独とか突進といった要素がちりばめられていて楽しめる。Youtubeにスコア付きの動画があり、旋律もハーモニーもリズムも技術的には非常に難しい曲なんだろうなと感じていた。こういう曲をナマで聴けることはとても貴重でありがたいものと思う。今回のコンサートがなければ、ひょっとして生涯付き合うことのない曲になっていたかも知れない。もったいないことをするところだった。(それにしてもカデンツァに出てくるあのピチカートの不思議な音は、何を表しているのだろう。)

堤氏の演奏は昔と変わらず体を思い切り使って、例えば左足をグーッと後ろに伸ばし、ほとんど背伸びするような姿勢で弾くような場面も頻出する。呼吸といい眼差しといい音楽に完全に没入している感じで、怖いくらいの迫力。E列だったので、独奏の音は少しばかり頭上を飛んでいくような感じであったが、堤氏の表情を間近で伺うことができたのは大きな収穫であった。

アンコールは「事件」であった。Twitterで前日のアンコールがバッハのブーレだったとあったので、同じ曲なんだろうなと思っていた。そしたら何と「鳥の歌」が始まったではないか! たちまち涙腺決壊。巨匠が奏でる深々とそして切々とした音楽に完全に打たれた。私の視界にあった客席には泣いている人が結構いるように見えた。

休憩後はいよいよ飯守マエストロのグレート。これまでのベートーヴェンの演奏でも感じてきたように、このシューベルトもやはり古典の端正な構成感の中に、要所要所で情熱的な迸りがあり、その音楽はとても熱い。

飯守マエストロの演奏で私がとても好きなことのひとつにリタルダンドがある。とても洗練されていると思う。分析できているわけではないのでハッキリしたことは言えないが、遅くなり方がスマートで野暮ったさが皆無。日本人、欧米人を問わず、何か余計な「タメ」のついたリタルダンドが多いように思う。飯守マエストロは、例えば楽章のエンディングにおいてリタルダンドが伴ったとき、推進力が失われないまま遅くなるというか何というか、気持ちの吹きだまり的な要素が全然なく、リタルダンドした先の最後の音が屹立する感じ。今回のグレートでも第1楽章と終楽章の終わり方は惚れ惚れするカッコよさだった。

第2楽章でオーボエの主題が入る前の弦の短い前奏も印象的だった。おそらく楽譜上は単純な音の羅列だろうけれども、職人芸と言ったらいいのだろうか、そこには独特の立体感があり、続く音楽にスーッと誘導される。

第3楽章は主部の歯切れの良さはもちろんのこと、トリオの木管から感じられるシューベルト独特の明るさの中にある寂しさも品良く奏でられ心に染み入る。本物のシューベルトを聴いている気分。

今回は「リピート無しで演奏します」とアナウンスされた。なるほど、実際に聴いてみるとこれは長い。第1楽章も終楽章も展開部に行くまでにずいぶんと時間がかかる。しかし、こういう優れたナマ演奏を聴くときは、これもいいものだ。単純に「もう1回聴ける」というお得な気分と、それからやはりリピート前後で全く同じということはなく、その極めて微妙な違いを感じ取るのもおもしろいものだ。

それから話題となっていたのがコントラバスの配置。
今回はコントラバスが舞台後ろに1列に並んだ。確かに珍しい。私としても初めての経験。やはり右側から聞こえるのに比べて正面からだとズンとくる。音はそのとおりであるが、加えて視覚的にも新鮮で、コントラバス奏者の表情がハッキリ見て取れるのもまた良かった。特に6人中まんなかのおふたりが、アイコンタクトをとりながら時に楽しげに弾いている様子は見ていて嬉しくなった。

私の席はE列22番。センターブロックのほぼ右端であったが、左奥からトロンボーン、トランペット、ティンパニ、セカンドヴァイオリン、ファーストヴァイオリンの音が分厚く重なって届いてきた。このブレンド感はなかなか良かった。正面からコントラバスと木管とチェロ、右からはホルンとヴィオラ。いろいろな配置があるのもいいなと思った。

飯守マエストロの指揮ぶりは凄く個性的だ。齋藤秀雄門下といえば極めて合理的で整理が尽くされたような振りを想像するのだけれども、全然ちがう。中間予備的な振りはほとんどなく、「弾きにくくないのかな・・」と思ったりもするが、こういう凄い音楽が出てくるのは一体どういうことなのか。今回ひとつ感じたのが、飯守マエストロは自らピアノを弾くような感じて振っているのではなかろうかということ。発音前の動きと発音後の動きからちょっとだけそんな風に思った。本当のところはよく分からない。

コンマスは神谷未穂さんだった。私のタイミング悪しく、おととしの11月以来となったが、やはりすばらしいリード。本当に美しい。

先月は新響の「トリスタンとイゾルデ」を聴いてきたので、11月から4か月連続で飯守マエストロのコンサートを聴くことができた。何という幸せ。次は5月のベートーヴェン。10月のブルックナーも最高に楽しみだ。



仙台フィルハーモニー管弦楽団第325回定期演奏会

ショスタコーヴィチ/チェロ協奏曲第1番
シューベルト/交響曲第8番「ザ・グレート」

指揮:飯守泰次郎
チェロ:堤剛
コンサートマスター:神谷未穂

2019年2月9日(土) 15:00 日立システムズホール仙台・コンサートホール


※Twitterの記事にいい写真がありましたので、リンクさせていただきます。



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